2026年10月30日(金) 17時00分
「昨日、ほとんど寝てなくて」
職場でそんな言葉を聞いたとき、あなたはどう感じますか。
「忙しいんですね」「大変ですね」と返しながら、
どこかで「それだけ頑張っているんだ」と思うことはないでしょうか。
一方で、「昨日は8時間眠りました」と話すのは、少しためらってしまう。
自分の仕事は終わっているのに、周囲がまだ働いていると帰りづらい。
明日に備えて眠りたいだけなのに、なぜか申し訳なくなる。
食事に気を配ることや運動を続けることは、健康的な習慣として話せるのに。
眠る時間を確保することには、どうして遠慮が生まれるのでしょう。
もちろん、忙しさを誇っているわけではなく、本当に休めず困っている人もいます。
だからこそ、睡眠を削らなければ頑張れないような毎日を、
当たり前にしてよいのか考えてみたいのです。
「24時間、戦えますか?」
かつてテレビCMから流れていたこの言葉を、覚えていますか。
1980年代末、忙しく働くビジネスパーソンの姿が力強く描かれた時代がありました。
もちろん、一つのCMが当時の社会全体を表しているわけではありません。
それでも長時間働くことや、多少の無理をしてでも仕事をやり遂げることが、
努力や責任感の表れとして受け止められる場面は、少なくなかったのではないでしょうか。
それから数十年。働き方も、健康への意識も変わってきました。
それなのに「寝る暇もないほど忙しい」という言葉が、
今もどこか誇らしく響くことはありませんか。
予定が埋まっている人ほど充実している。
遅くまで働く人ほど熱心だ。
そんな見方に、私たちは知らないうちに影響されているのかもしれません。
けれど、忙しさと、その人の価値は同じではありません。
長く起きていることと、よい仕事をすることも、必ずしも同じではないのです。
コンビニやスーパーには、栄養ドリンクやエナジードリンク、カフェイン入りの飲料が並んでいます。
鮮やかな色の缶や、スポーツ、ゲームを思わせるデザイン。
かつての「疲れた大人が飲むもの」という印象とは異なる商品も身近になりました。
ただし、栄養ドリンクとエナジードリンクは同じ分類とは限りません。
医薬品・医薬部外品に分類されるものもあれば、
清涼飲料水として販売されるものもあり、成分は商品ごとに異なります。
カフェインには、一時的に眠気を感じにくくする作用があります。
しかし、眠気が薄れたからといって、身体に必要な睡眠を補えたわけではありません。[1]
また、カフェインの摂りすぎには注意が必要です。
特に子どもや妊娠中・授乳中の方、カフェインに敏感な方などは、
製品の表示や摂取量に気を配る必要があります。[2]
若い世代の目にも留まりやすいデザインだからこそ、
手に取る前に成分表示や注意書きを確かめることも大切です。
見た目が親しみやすくても、誰にでも適した飲み物とは限りません。
もちろん、こうした飲料を利用すること自体を責めたいわけではありません。
どうしても踏ん張らなければならない日もあるでしょう。
ただ、「疲れたから何かを飲んで、もう少し頑張ろう」が毎日の習慣になっていたら、
少し考えてみたいのです。
「本当は、眠る時間が必要なのではないかな」と。
睡眠は、ただ目を閉じて過ごす時間ではありません。
心身の健康を保つうえで、大切な働きをしています。
睡眠不足が続くと、日中の眠気だけでなく、注意力や判断力、気分などに影響することがあります。長期的な健康リスクとの関連も指摘されています。[1]
例えば、夜遅くまで資料を仕上げた翌朝。
普段なら気づく間違いを見落としたり、何気ない一言に必要以上に落ち込んだり。
そんな経験はありませんか。
「あと少し頑張れば終わる」と睡眠を削ったつもりが、翌日の集中力が続かず、
かえって時間がかかることもあるかもしれません。
眠ることは、頑張ることの反対ではなく、明日の自分を支えるための時間なのです。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、
成人は6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保し、
眠って休養がとれた感覚も大切にすることが示されています。[1]
ただし、必要な睡眠時間には個人差があります。
「何時間なら絶対に大丈夫」と数字だけで決めるのではなく、
朝の目覚めや日中の調子にも目を向けてみましょう。
睡眠を削って生まれた一時間が、いつも自分のためになっているとは限らない。
そんな見方も必要なのかもしれません。
時計を見ると19時。今日の仕事は終わったし、明日も朝が早い。
そろそろ帰ろう。そう思って周囲を見渡すと、まだ誰も帰る気配がない。
「自分だけ先に帰っていいのかな」
誰かが頑張っている姿を見ると、自分ももう少し残らなければと思ってしまう。
責任感があるからこそ、そんな気持ちになることもあるでしょう。
でも、睡眠を優先することは、仕事への意欲が足りないという意味ではありません。
明日の自分が安全に、健やかに過ごすための選択でもあります。
もちろん、仕事や育児、介護など、自分だけでは時間を調整できない事情もあります
。十分に眠れない人に「早く寝ればいい」と言うだけでは、解決しないことも多いはずです。
だからこそ、個人の頑張りだけに任せず、
休める環境を一緒につくることも大切ではないでしょうか。
誰かが帰るとき、「もう帰るの?」ではなく「お疲れさま」と送り出せたら。
そんな小さな言葉が、眠ることへの後ろめたさを和らげるかもしれません。
睡眠を大切にするために、生活を一度に変える必要はありません。
明日の起床時間から逆算して、今夜の就寝時刻を考えてみる。
寝る直前まで続けていた作業を、一つだけ明日に回す。
夕方以降のカフェイン入り飲料を見直してみる。[1]
そして、「寝る時間がなくて」と話す代わりに、
「今日は眠る時間を確保したい」と言葉にしてみる。
思うように眠れない日があっても、自分を責めなくて大丈夫
。眠れない状態や強い日中の眠気が続く場合には、医療機関など専門家への相談も大切です。[1]
Wellness Gateが大切にしている「健康習慣8バランス」には、
睡眠だけでなく、食習慣、運動、メンタル、人間関係なども含まれています。
前回の人間関係のコラムでは、自分が安心できるつながりについて考えました。
今回の睡眠もまた、自分を大切にするための習慣の一つです。
▶ 前回のコラムはこちら
人とつながっているのに、孤独を感じてしまうのはなぜ?
「ウェルネスバランスチェック」で、今の暮らしを振り返るきっかけをつくってみませんか。できていないことを責めるためではなく、これからの自分に必要なことを見つけるために。
▶ ウェルネスバランスチェックはこちら
Wellness Balance Check(ウェルネスバランスチェック)
「24時間、戦えますか?」という言葉が広まった時代から、
私たちの暮らしは大きく変わりました。
それでも、眠らずに頑張る人を立派だと感じる気持ちは、
どこかに残っているのかもしれません。
でも、頑張っているかどうかを、睡眠時間の短さで測る必要はないはずです。
大切な仕事がある日も、誰かのために力を尽くした日も。
自分の身体を休ませる時間まで、後ろめたく思わなくていい。
もし今夜、誰にも遠慮せずに眠る時間を選べるとしたら、あなたは何時に眠りたいですか。
その答えを、明日の自分を大切にするための、小さな約束にしてみませんか。
<参考文献>
[1]厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
睡眠時間の目安、睡眠休養感、睡眠不足による健康への影響、カフェインと睡眠の関係。
[2]消費者庁「食品に含まれるカフェインの過剰摂取について」
カフェインの過剰摂取への注意、子どもや妊娠中・授乳中の方などへの注意事項。